土地活用を行ううえで注意したい「地震のリスク」を解説│知っておきたい耐震の歴史
2024.07.12 UP
所有する土地にマンションやビルなどの建築を計画するうえで、建築後の地震についての不安を抱える方は少なくありません。
諸外国と比較しても日本の地震発生件数は多く、世界で起こる地震の内、約20%が日本で発生すると言われています。
地震の規模は大小様々ですが、日本では以下の表のように大きな地震がたびたび発生しています。
1923年 関東大震災 | M7.9・最大震度6 |
1995年 阪神淡路大震災 | M7.3・最大震度7 |
2004年 新潟県中越地震 | M6.8・最大震度7 |
2011年 東日本大震災 | M9.0・最大震度7 |
2016年 熊本地震 | M7.3・最大震度7 |
2024年 能登半島地震 | M7.6・最大震度7 |
地震に対する不安を解消するためには、建物の耐震や地震について正確に把握することが大切です。
そこで本記事では、地震と建物の揺れ、震度とマグニチュードの関係などを、構造設計一級建築士の視点から解説します。
(監修:構造設計一級建築士 本間)
耐震についての基礎知識
建物の耐震性について確認するうえで、以下の3つの項目について知ることが大切です。
- マグニチュードと震度の違い
- 建築基準法の構造の決まり
- 旧耐震と新耐震の違い
これらについて、特にマンションやビルで採用されることが多い、RC(鉄筋コンクリート)造の場合を例に、詳しく解説します。
マグニチュードと震度の違い
はじめに紹介するのは、マグニチュードと震度の違いです。
目にする機会の多い2つの言葉ですが、以下のように意味合いは異なります。
- マグニチュード(M◯.◯と表記される):地震のエネルギーそのものの大きさ
- 震度:ある地点における揺れの大きさ(震度7が最大)
図で表すとこのようになります。
つまり、マグニチュードの大きな地震であっても震源(地震の起点となった地下のある地点)からの距離が遠い場合、震度が小さい場合があります。
逆にマグニチュードが小さくても、震源からの距離が近ければ、震度、被害が大きくなることもあるでしょう。
この計算式は、マグニチュードが1大きくなると地震のエネルギーが約32倍も大きくなることを示しています。
たとえば東日本大震災(M9.0)と阪神・淡路大震災(M7.2)はどちらも震源地付近の震度は7と同じですが、地震エネルギーは1000倍の差があったこととなります。
建築基準法における地震に対する構造の考え方
続いて、建築基準法が地震に対して建物の構造をどのように考えているのか確認します。
建築基準法では、以下の2つの考え方で耐震性を規定しています。
- 倒壊等防止 : 大規模地震に対しては、損傷は受けても、人命が損なわれるような壊れ方をしない
- 損傷防止 : 中規模自身に対しては、大規模な工事が伴う修復を要するほどの著しい損傷が生じないこと
つまり現行の建築基準法に則した建築を行えば、人命が失われたり大規模な改修が必要になるなどの被害を受ける可能性は低くなると考えられます。
旧耐震と新耐震の違い
最後に確認したいことは、旧耐震と新耐震の違いです。
大きな地震が発生するたびに日本の建築基準法は改正されてきましたが、中でも大きな変化は1981年の旧耐震から新耐震への改正です。
- 旧耐震 : 中規模地震(震度5強程度)のみ検討。RC造においては柱を支える帯筋の間隔が300mmピッチであった。
- 新耐震 : 中規模地震に加えて大規模地震(震度6強~7)の検討も義務付ける。RC造においては柱の帯筋の間隔が100mmになるなど、大幅に強化された。
新耐震基準になってからも、1997年・2000年・2007年・2008年とたびたび法改正が行われていますので、中古物件の購入やすでに所有している建物の耐震性を確認する場合は、どの基準に基づいて建てられているか確認することが大切です。
過去の地震と耐震基準の歴史
なぜ耐震基準が強化されてきたのか、過去の地震と耐震基準更新の歴史を確認してみましょう。
なお、過去の地震における大破・中破・小破・軽微な被害といった被害の度合いは、以下の図を参考にしてください。
参考:日本建築構造技術者協会 JSCA性能設計【耐震性能編】
1981年 新耐震基準制定 | 新潟地震、十勝沖地震、大分県中部地震、宮崎県沖地震などの経験を踏まえて決められた。 |
1995年 阪神淡路大震災 | RC造 被害状況 : 倒壊・崩壊 2.2% 大破 4.4% 中破・小破・軽微 55.6% 無被害 37.8% |
2005年 姉歯計算偽装事件 | 構造計算を行った20件の建築物について、構造計算書を偽造していた事件。 |
2007年 構造適法性判定 | 姉歯計算偽装事件より、計算内容を確認申請機関に加えて構造計算の適合性を判定する期間も行う制度が始まる。 |
2008年 構造設計一級建築士 | 一級建築士の上位資格、構造設計一級建築士制度開始。 構造設計一級建築士:高度な構造技術建築士 |
2016年 熊本地震発生 | RC造 被害状況 : 倒壊・崩壊 0% 大破 0% 中破・小破・軽微 10.8% 無被害 89.2% |
地震と耐震基準の歴史から分かることは、耐震基準の改正によってRC住宅が被害を受ける割合が大幅に減ったことです。
【図 阪神淡路大震災と熊本地震 被害状況の比較】・・・地震被害の減少
東日本大震災のように、津波などの被害については別途対策は必要ですが、阪神・淡路大震災では倒壊・崩壊・大破の事例があった一方で、熊本地震では倒壊・崩壊・大破の報告はなく、中破~軽微被害は10.8%と大幅に抑えられています。
こうした地震に対する法改正と、改正後の地震被害のデータから、現行の基準に則って建築するRC造のマンション・オフィスビルであれば、倒壊や大破といった被害を受ける確率は低いといえるでしょう。
まとめ
過去の大きな地震の歴史を紹介するとともに、耐震性について検討する際に確認したい事柄を解説しました。
過去の数々の大地震の経験から新耐震基準が制定されるとともに法改正が行われ、耐震偽装事件を期に構造設計一級建築士が制定されるなど、地震や事件を受けて耐震性能の強化や構造設計の正確性は高まっています。
実際に、現行の耐震基準に基づいて建てられた建物の比率が高まる中で発生した熊本地震では大きな被害は報告されていません。
現行の基準に合わせて建築する以上、マンションやオフィスビルで大規模な被害を受ける確率は低いといえるでしょう。
今の建物の耐震性にご不安がある方、将来的な建築を検討する中で地震などの災害リスクに関するご不安を抱えている方は一度専門家にご相談することをお勧めします。
鈴与三和建物株式会社は、昭和10年の創業以来、都心部を中心にビル・マンションの建築を続けてきました。約90年間で培った経験に基づき、お客様のお悩みやご要望に合わせて提案をさせて頂きます。お悩み事やご計画がある方は、是非お気軽にご相談ください。